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富山県大会1日目感想

①新湊高校「アルプススタンドのはしの方」

(作:籔博晶 潤色:新湊高校放送・演劇部)

2017年度全国高等学校演劇大会において最優秀賞を受賞した兵庫県東播磨高校演劇部による作品。高校野球の試合をアルプススタンドのはしの方で見ている4人の高校生の心情がていねいに描かれている。

演劇部の3年生で、インフルエンザで中部大会の上演ができなかった経験を持つ安田あすはと田宮ひかる。優れた才能を持つ同級生の陰で、野球を続けられなくなった藤野富士夫。毎回成績トップを続けてきたが初めて2位に甘んじた宮下恵。
それぞれの過去に「しょうがない」とあきらめていた4人の心が、試合の進行とともに揺れ動き、ラストシーンでは精一杯の声で応援をする。

さすがにとてもよくできた脚本で、思わず目頭が熱くなった。新湊高校のキャスト4名もそれぞれが個性的で声もしっかり出ていた。本番に至るまでの稽古量がうかがえた熱演だった。

だからこそ、気になった点をいくつか。

ところどころで吹奏楽部の演奏や打球音が入る以外は無音で進行していたが、そうなるとどうしても舞台空間が「甲子園」に見えてこなかった。音量をデリケートに操作することで観客の声援や吹奏楽の演奏を入れながらでも声は聞こえたのではないだろうか。
実際には見えないグラウンドを観客に想像させるためにも音の使い方にもう一工夫あるとよかった。

また登場人物の微妙な心の変化を表現する芝居なので、登場人物間の距離や目線、ちょっとしたしぐさなどにもまだまだ芝居のしどころがあるように感じた。
セリフのないときの動きや表情でもできることはたくさんあるので挑戦してほしい。

この作品で重要なことは、登場人物4人には実は野球を応援する必要はないということだと思う。なのにラストでは声を限りに応援する。それは野球の試合に自分自身を投影しているからに他ならない。「しょうがない」とあきらめていた自分をもう一度立ち上がらせるために応援しながら自分自身も鼓舞しているのだ。
だとすると、負けてしまったあとのあすなの「来てよかった」「悔しい」というセリフがそれまでとは違ったセリフとして発せられるのではないだろうか。

とても魅力的な4人だったからこそ、進化したアルプススタンドを観たいと強く思った。

 

新湊高校放送・演劇部のみなさん、ありがとうございました!

 

②小杉高校「by us」

(作:渡辺鈴 潤色:小杉高校演劇部)

2018年度中部日本高校演劇大会で愛知県の南山高等学校女子部によって上演された作品。

幕が開くと暗転の中でハイヒールの音が印象的に聞こえてくる。照明がつくと舞台は塾の休憩室で6人の高校生(葵、薫、千秋、汐音、渚、優希)が他愛もない会話をしている。

しかし気になるのは6人全員がズボンをはいており、一人称も「私」「俺」「僕」などさまざまな上、自分を「俺」と呼ぶ渚の夢が結婚だったり「僕」の優希がアイテープで二重瞼にしていたりとあえてそれぞれの性別がわかりにくくなっていることだった。

実はこの設定は葵のイメージの世界(理想)であることが後半で示される。薫が塾の帰りにストーカーに後をつけられたという事件が起こり、その犯人が彼女たちの通う塾の講師がつける緑のバッジをつけていたというのだ。彼女たちは冷静かつ客観的に犯人を推理し、女性講師が犯人であることを突き止める。

しかし、そこで葵の世界は突然混乱し男性/女性に関する自問自答がはじまる。そして次のシーンではほかのメンバーがすべてスカートを履き、ジェンダーにとらわれた推論を展開して男性の講師を犯人だと決めつける。これが現実の世界なのだという強いメッセージを受け取った。

全体講評でも述べたがこの作品は非常に構成がはっきりしている構造的な作品なので、キャスト・スタッフは脚本の構造をよりクリアにすべくプランを創っていく必要がある。葵のイメージの世界はよりカラフルに多様性を持った世界として描かれねばならない。その点では衣装やセリフの言い方にもう一工夫がほしかった。
逆に可能であれば現実世界になったシーンではスカートだけでなく全員が制服を着てもよかったのではないだろうか。汐音は髪の色がとても個性的だったが、現実世界では黒髪になっていてもインパクトがあるだろう。

数ある脚本の中からこうした構造的な作品を選ぶというのは非常にセンスがあって強いチャレンジスピリットを感じました。高校演劇に限らずいろんな作品を観ることで自分たちの「引き出し」が多くなるので、ぜひこれからも挑戦を続けて行ってほしいと思いました。

 

小杉高校のみなさん、ありがとうございました!

 

③呉羽高校「地上より永遠に」 【最優秀賞】

(作:西野詩織 潤色:呉羽高校放送・演劇部)

 

1998年度の中部日本高校演劇大会で福井県立藤島高校演劇が上演した作品。

舞台は30世紀。幕が開くと未来の女子高生「984830」(名前はなく番号で管理されている)の傍らに「白」と「黒」という超越的な存在が立っている。彼らは長いローブをまとっているが身長が2メートルを超えるように見える。おそらくローブの下で何らかの台に立って演技をしていると思われるがこうしたビジュアルのギミックはとても楽しい。
「白」と「黒」は宿題を提出せず彼らの価値観に染まらない「984830」の言動を責めている。それに対して彼女は静かに自分が変わった理由を話し始める。とても印象に残るオープニングで、思わず舞台に引き込まれた。

ガラリと雰囲気が変わり、「984830」は宇宙船の中でコンピュータの「ハル」と二人ではしゃぐようにセリフを交わしていく。そこに生命維持装置で21世紀から蘇った「いそのかつお」が登場し、「984830(そんなの覚えられないという理由でかつおは彼女のことを9と呼んでいた)」とハル、かつおの3人は宇宙船に乗って旅をする。

彗星の名前を叫びながら舞台を横切るギャラクシーガールや、ちっとも怖くない宇宙海賊、バイキンマンのようなコンピュータウイルスなどが現れるシーンは馬鹿馬鹿しいながらも「銀河鉄道の夜」を連想させる。欲を言えばこれらのキャラクターたちがもっとエネルギーを持って好き放題やってくれると楽しい。

3人の不思議な旅が続く中、9は次第に自分の生きる意味について考え始める。

与えられる課題をこなしてただ生命を維持し続けていく自分は「ちゃんと生きて」いないのではないか。9の心が揺れ動くのに合わせて、こんなにも現実からかけ離れた設定であるにも関わらず、この芝居を観ている自分も同じではないか、「ちゃんと生きて」いないのではないかと思わされた。そしてその思いは宇宙船と9を救うためにかつおが命を投げ出すシーンで最高潮を迎えた。

20年以上前の脚本ではあるがそこに書かれた人間存在の不確かさや悩みは、より深く深刻になっていると思える。そうした意味でこの脚本を選んだのはファインプレーだった。

12月の中部大会に向けてさらにレベルアップしてほしい点はキャストスタッフとももっと過剰を追及してほしいということだ。ハイテンションの芝居はより元気に、逆に静かなシーンでは身動きひとつしない繊細さをもって。音響、照明、舞台装置もまだまだ改善の余地がある。

より高いところを目指す作業は辛くもあるが楽しい。芝居のテーマでもあるが「ちゃんと生きて」いるところを魅せてほしい。

 

呉羽高校演劇部のみなさん、ありがとうございました!

④富山高校「終わらない物語」

(生徒創作)

何と言っても45分間の一人芝居。

これはすごい。誰も助けてくれる者のない中、たったひとりで舞台に上がるのはどれほど怖かったろうか。しかし彼女はしっかり演じ切り、審査員講評で私が「でも楽しかったろ?」と尋ねた時とびきりの笑顔で「はい!」と答えてくれた。

本ベルが鳴る。緞帳の前に照明がつき、一人の少女が現れる。
「あーどうしよ。緊張してきた・・・」「大会、大会だあ・・・!今日まで大変だったな」
これは彼女自身の物語だ。そう直感した。

緞帳が上がるとそこは相談室のような場所。舞台の両端には簡単な衝立が、中央にはイスが1脚置かれている。彼女はそのイスに座り語り始める。

中学校で演劇を始めたこと。充実した時間を過ごし全国大会にも出場したこと。
高校でも演劇部に入ったが新入部員が自分一人だったこと。
少ない人数で苦労しながらもがんばったこと。
そして新型コロナウイルスの影響で大会が無観客になったこと。
その後もなかなか発表の機会がないこと。
苦しいのは自分だけではない、いつかまたちゃんと演劇ができる日を信じよう・・・
それでも話すうちに彼女の感情は高ぶり、「こんなはずじゃなかった!」という叫びが口を突く。この瞬間は彼女のうしろに本当に多くの高校生、いや表現に関わるすべての人の姿が見えたように感じた。

しかし。

その後彼女は「ごめんなさい、取り乱しちゃって」と謝り、冷静に中学時代の思い出に戻ってしまった。当時演じた芝居のセリフを引用し、「今回のことは私たちの人生・・・いわば物語の1ページに過ぎないでしょ?これからも私たちの物語は続いていく。私たちが生きている限りこの物語は終わらないから」と語る。それはついさっきまで演じていた前向きな女の子そのもので、まるで仮面がずれてほんの一瞬垣間見えた彼女の素顔が、再び仮面の奥に隠されてしまったようだった。

思い切って文句を言ってもいいんじゃないだろうか。誰のせいでもないこの状況に。心の底から「こんなはずじゃなかった!」と怒鳴り散らしてもいいんじゃないだろうか。だってこれは演劇なんだから。どんなに毒づいても悪意に満ちた顔を見せてもそれは演技だと言えるのだから。

彼女をはじめ、上演に関わった富山高校のみなさんに大きな拍手を送るとともに、厳しいけれど「本当の挑戦」をしてほしいという思いを伝えたい。

 

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