⑤砺波高校「face」
(創作)
去年同じクラスだった親しい友達の前での自分。
今なかなか馴染めないクラスでの自分。
インターネットで配信をしている自分。
1人の人間であっても、相手によって状況によってさまざまな面を持っている。
大人になればそんなもんさと思えるかもしれないが、思春期には「本当の自分とは何か」という問いを持たずにはいられない。むしろ絶対的な本当の自分などないということを知ることこそが大人になるということなのかもしれない。
この作品を観ながらそんなことを考えていた。
この作品で私がとても面白いと思ったのは、それを主人公の唯奈に教えてくれるのが配信仲間の蒼だということだった。
頭ではオフラインの関係もオンラインの関係もどちらも自分なのだとわかってはいるもののついネットよりも現実世界のほうが「リアル」なのではないかと考えてしまいがちだが、唯奈にとっては、そして現代の多くの高校生にとってはオンラインでの関係性こそ「リアル」であり現実感があるのかもしれない。
演技演出の面では、オフラインの会話の際に役者が正面を向く芝居が多いと感じた。
声を客席にしっかり聞かせたいという意図があったのかもしれないが、そこに縛られすぎて会話がやや成立していないと感じる部分もあった。
逆にオンライン部分で唯奈と蒼が向き合ったり距離を詰めたりする場面が一部見られたが、そうすると逆に「オンライン感」が薄れてしまう。明確にオフラインは向き合い、オンラインは正面を切るというふうに区別したほうが演出としてクリアになったように思う。
スタッフワークではオフラインからオンライン、オンラインからオフラインといったシーンの転換を音でつないだりブルーの照明を使って単なる暗転にならないよう工夫されていた。椅子の移動もテキパキとなされ、とても好印象だった。
創作脚本で世界をイチから創りあげることはとても大変ではあるがやりがいもある。
自分たちの好きなことを誰にも邪魔されずにやるんだ!という心意気を強く感じた作品だった。
砺波高校のみなさん、ありがとうございました!
⑥富山第一高校「保健室のYOU霊?」 【優秀賞】
(創作)
第一印象は「創り慣れてるなあ」。
しっかりと汚しを施したパネル。強く開け閉めしてもスムーズに動く扉。ベッドの配置や衝立での隠し。幕が開いた瞬間に安心感と期待感があった。
たくさんのキャストが舞台上に出てくるが、ベストの色などで区別されていて混乱することもない。キャストそれぞれの立ち位置もしっかり計算されていて見やすかった。
演技も期待に反することなく、リアルで繊細な部分もコメディータッチでテンポよく進むところもあり、いい意味でTHE高校演劇ともいえるものだった。
ストーリーは、音や光に過剰に過剰に反応してしまう(HSP)やメモを取ったことを忘れたり感情のコントロールが効かない(ADHD)といった特性を持つバドミントン部の天野が大会に出場できるのかどうかという話と、保健室に4年に1度現れるという幽霊を放送部が取材するという話がリンクしていくというもので、自分の気持ちを素直に表現できない天野に高校時代に亡くなった「水島さん」が憑りついて(それはおそらくは憑りつかれたふり、なのだが)水島さんにインタビューするという形で天野の思いが少しずつ周囲に理解されていくというアイデアもとても秀逸だと感じた。
まさに「創り慣れている」。
高校演劇の審査や評価によく完成度という言葉が使われるが、いわゆる完成度であれば今大会NO.1であったことは間違いないと思う。
しかし、だからこそ、それだからこそ、脚本で扱う内容についてもっと深く考えてほしいと感じた。
彼らは脚本で扱われていたHSPやADHDについて理解していないわけではないと思う。
おそらくはみんなで調べ、話し合いもしたのではないかと思う。
それは舞台を観て十分伝わってきた。
彼らにとって「わかった」ことはたくさんあって、それを演劇にしてたくさんの人に伝えたいという気持ちも伝わってきた。
でも。
わからなくたっていいんじゃないだろうか。
伝わらなくたっていいんじゃないだろうか。
天野が水島さんに託してどうしても言えなかったことを必死で言おうとしている。
それだけで十分心動かされるし、それでも他者に伝わらないとき、観ている側も「どうすれば彼女の気持ちを理解できるのか」を真剣に考えるのではないか。
放送部の楽しいメンバーのお芝居は安定感があって笑えたけれど、バドミントン部の先輩たちが天野を厳しく責め立てる言葉のほうが私には強く印象に残っている。
富山第一高校のみなさんへ。
審査員講評のときも同じような内容で強く話をしました。
この文章でもみなさんを傷つけてしまったかもしれません。
しかし私はひとりの大人として、演劇人として、真剣に向き合い言葉を紡いだつもりでいます。
みなさんがさらに素晴らしい作品を創ってくれるのを心から楽しみにしています。
⑦富山中部高校「後夜祭」 【最優秀賞】
(作:木村繚真 潤色:富山中部高校演劇部)
既成脚本。脚本ダウンロードサービス「はりこのトラのあな」に(2019年版・最終稿)として掲載されている。
舞台は学校祭当日の会議室。生徒会長の雛子が閉会式で流すスライドショーの写真を選んでいると3年生の千鶴が飛び込んできて後夜祭をやりたいから学校に掛け合ってほしいと直談判に来る。けんもほろろに却下する雛子。そこに雛子がかつて演劇部に所属していたころの先輩である未歩や、弟のためのフランクフルトを買いそびれたさえ、生徒会メンバーで1年生の夏実も入ってきてそれぞれの事情が深刻になりすぎない微妙なバランスで語られていく。
このあたりは脚本ももちろんうまく書かれているが、キャストたちの演技も光っていた。
さりげない、何でもない会話ではあるが、それをちゃんと会話として成立させるには稽古量や脚本の理解が欠かせない。
自分が誰に何をなんのために話しているか、それをどう聞いているかといった基本的なことがしっかり押さえられている好演だった。
後半、2年生の生徒会メンバー真優が走りこんできて、演劇部の公演を前にステージの照明が点かなくなったというアクシデントを告げる。現場に急行する雛子と未歩。
その真剣な姿を見て千鶴も「なんか、手伝うこと、ないかな?」とペンライトを袋から1本1本取り出すという極めて地味な作業を手伝う。
それはみんなが楽しむための仕事であり、同時に誰にも気づかれることがない仕事だ。
そこに千鶴は自分が頑張っていたバレー部の基礎練習と重なるものを感じる。
しばらくして雛子は涙しながら戻ってくる。自分がいたころの演劇部とは違ってアクシデントにも真剣に向き合い何とか上演を行おうとする姿に感動したのだという。
スライド作りの作業に戻る雛子に、千鶴と未歩は自分の携帯で撮った写真を提供する。
これもみんなのための誰も知らない貢献だ。
ラストシーンは24時間テレビのテーマソングとして知られる曲『サライ』に載せて、ホワイトボードに学校祭を楽しむみんなの写真が流れるなか幕が下りた。
舞台装置も長机や椅子、ホワイトボードといった会議室に普通にあるものに加え、数多くの段ボールを積み上げたり紙資料や筆記用具などを散りばめたりして学校祭の日の会議室という空間を作り上げており、工夫しだいで多くのお金をかけなくても舞台装置として十分成立することを示していた。
こうしたスタッフワークもまた、派手さはなくても作品のためにしっかりと貢献していた。
12月の中部大会に向けてさらにレベルアップしてほしい点としては、脚本を今以上に自分たちのものにしてほしい。既成脚本なのでセリフにしてもト書きにしてもつい「脚本通り」でいいと思いがちだが、脚本はあくまで舞台の設計図であり、演出や演技、スタッフワークの力で作品にしていくもの。ギリギリまでできることがないか追及してほしい。
例えばオープニングやエンディングの『サライ』の音量や音を出すタイミングには考える余地があるし、千鶴と夏実・美優がペンライトの袋を破るシーンでは「しばらくの間 キーを叩く音と袋を破る音だけが部屋に響く」とト書きに書かれているが、実際にやってみるとそれらの音を客席に聞かせるのは難しい。どうやって地味な作業を強調できるか、いろいろ試してみるのも面白い。照明もスライドの写真もまだまだ工夫できる。
こだわったことの一つ一つは誰にも気づかれないかもしれないが、そうした工夫を重ねていくことで作品全体のクオリティは必ず上がります。
富山中部高校演劇部のみなさん、がんばってください!