キャスト

今、ここだけに集中してみる=演劇

稽古で最初にやることは

全員で同じ目的と意志を共有し豊かな創作の時間に入るために、稽古を始める前には改めて一緒に作っていく仲間たちに毎回新鮮に出会いましょう。

例えば、クラップ(輪になって拍手をつないでいく)呼吸を合わせるといったことを使って、創作に入っていくためのエネルギーを高め、グルーブを生み出して、みんなでつないでいく、それは作品作りにとても重要な出発点です。

演劇の稽古場は日常とは地続きでないどんな場所にでもなれる特別な時間と空間なのです。

自分一人でやること

なるべく早くセリフは覚えましょう。

俳優はどんなことがあってもセリフをスラスラ言えることで自由になり幅が広がります。 セリフを覚えるときに徹底すべきことは必ずフラットに覚えること、そして自分のセリフだけでなく、全部のセリフを覚えましょう。

セリフは筋トレと一緒です。

ここは孤独な作業です。しっかりと鍛え上げて、体に染み込ませた上で、稽古に臨むのがベストです。

配役について

演劇のおもしろさのひとつに、ある状況で登場人物が変化していくのを目の前で体験することがあります。

えば、”シンデレラ”と聞いて、どんなイメージを持ちますか?
髪の長い、すらっとした綺麗で痩せたお嬢様のようないわゆる女性?

それは誰もが持つ”シンデレラ”というイメージでしかなく、演劇でわざわざ再現する必要はないのかもしれません。 現代演劇では、イメージとはかけ離れたような容姿や性別の人がそのキャラクターを演じることが多くあります。

その姿は一見、滑稽だったりおかしなように感じるかもしれませんが、その人に起こる変化を見るという点においては、より物語の持つ意味合いがくっきりはっきりし、そこにどのような心の動きや人間ドラマがあるかということがわかりやすく提示される場合があります。

また俳優がその人の持つ性別、外見的な特徴での勝負ではなく、演技によって選ばれ舞台に立つ、そういった作品作りが誰にでもフェアにひらかれた配役のあり方かもしれません。 なので役を決めるときにはイメージにとらわれず、先入観を取っ払ってみましょう。

稽古が始まったら

台本が決まった時点で皆さんワクワクしてきっと家でたくさん読んでくるでしょう。
自分の中でこんなふうにやりたい!とプランしたりイメージを膨らませるかと思います。

でもまず初めの読み合わせでは、それぞれの持つイメージを一旦置いておいて、フラットに読んでいきましょう。
漠然とした読み合わせはあまり効果的ではありません。
全員で目的を明確にし、台本と向き合い何が書かれているのか理解を深めるためにしっかりと発話してみることが大切です。

目で文字を見て読むのと実際に発話をするのとでは、だいぶ印象が変わってきます。
セリフの羅列がどのようなきっかけで起きているのか想像しながら大事に読んでいきましょう。 いくつかの解釈が発見できたり、自分たちの台本の理解のためにも役立ちます。
また、戯曲や作者へのリスペクトでもあります。

セリフを覚えたら、全編の「超高速セリフ回し」をオススメします!

これはウォーミングアップの一環として本番まで続けるとよいでしょう。
セリフの確認のためにも、全員のグルーブを作っていくためにも、作品全体の流れを確かにしていくためにも、とても有効です。

そして、どんどん実験していきましょう!

稽古場は失敗して発見する場所です。
例えば、当たり前に想像されるイメージからかけ離れた設定に置き換えてみたり、大胆な演出で同じシーンを表現しようとしてみることは、一見回り道のようでたくさんのアイディアや気づきを積み上げていくことができます。

・体に負荷をかけ続けた状態でやってみる

・動物やロボットとしてやってみる

・セリフを言わずに動きや体の向き、目線だけでやってみる

作品の道筋をはっきりしていく

きっかけ→→セリフ→→リアクション(結果)

なぜこのセリフをいうのか、このセリフを言うことで何を示そうとしているのか、そしてその紡がれているセリフからどのように物語が進んでいくのか、ひとつひとつ細かいベクトルを明らかにして、最初から最後まで連なる道筋を組み立てていきましょう。

始めから終わりまでに流れている一本の道をより確かなものにしていくことで、作品は観客にとって意図が明快になり、俳優は実験によって生み出された過去の形をなぞるのではなく、今この瞬間に起きていることに集中することができます。

それが始まりから終わりまでどこを切り取っても絶え間無くつながっているということが一つの作品のゴールであるのです。

表現は自由

ここに書いてみたのは、劇作のほんの一例です。

わたしたちは普段、過去のことや未来に起きるかもしれない事ばかりにとらわれてしまう傾向がありますが、演劇は今ここにあるものだけに集中することのできる時間なのです。

Enjoy!

 

※本記事は2021年6月3,4日に行った石川県高文連演劇専門部春季演劇講習会でレクチャーを行った内容をもとに書かれています。記事作成にあたっては島貴之さん、梨瑳子さんにお願いした部分が多くあります。ご協力に感謝いたします。